『産業医という視点からみた現代組織の問題点を考えることの大切さを痛感した』
最初は、「職場で抱えている悩みはどのようなものかということを知りたい」という程度の目的で本書を購入したが、読み進めるうちに、疲弊した職場環境の再生のヒントが隠されていることに気づき、非常に興味深く読ませてもらった。
職場で個々人が抱えているメンタル的な悩みを取り除くことが、組織の活性化につながることに異論はないはずだが、「メンタルヘルス=個々人の問題」として捉えている企業がほとんどであり、両者間のフィードバックがなされている企業は、あまりないのではないか。
その意味では、本書のように、産業医に寄せられる悩みや相談から、職場環境や上司のあり方を考えることは、非常に有意義なことであり、大切だと思う。
「職場のメンタルヘルス対策とコーチングがビジネス心理学という視点からみれば極めて似ている。(P152?)」という点も納得できる。
さらに、「過労問題のカギは、職場のモラルにあり、見えてきたのは、上司らとの人間関係に悩み、コミュニケーションがとれないまま、精神的に疲れ果てている従業員たちの姿である」と捉え、職場のコミュニケーションのあり方を幅広い視点から見つめている点も参考になる。
今の時代に求められる上司像(P152?P153)は、(管理職でない自分でも)胸にグッとくるものがあった。上司のあり方がこの2ページに集約されているように思えた。大切なことは、部下や周りの人対する思いやりなのではないか。
一方、第2部の「倒れそうな部下をどう救う?」では、悩んでいる部下との接し方に触れており、産業医ならではの接し方に学ぶことも多いと思う。
企業の管理者層に下手なメンタルヘルスの研修を行うよりは、本書を一読してもらい、その内容を議論した方がずっと有意義かもしれない。